2009年11月のライヴ以来、KCのメンバーは充電期間をとっていた。
その間、遊びで何度かスタジオに入っていた4人だが、クイーン以外の演奏曲で、かなり盛り上がっていたらしい。
結果的にはバンドにとってそれが一番の充電になったようだ。
残暑がピークを過ぎた9月の終わり頃、すぬさんから「1年ぶりにライヴやります!」という第一報が届いた。
しかし詳細がはっきりしてきたのは、11月に入ってからだった。
それにライヴまで約1ヶ月となっても、その告知に関しては“待ち”の状態が続いた。
私はそれに少々シビレをきらしてしまい、フライングを承知で、KCのフライヤーを作成した。
そのため作成したフライヤーには今回のライブタイトルは入っていない。
ライヴタイトルが判明したのは11月中旬で、それには「Tribute of Theatrical Rocks」という、あまり耳にしたことのない言葉が書かれてあった。
■Theatrical Rocks
“シアトリカル・ロック”を直訳すれば、演劇型ロックというところか?
シアトリカル・ロックは音楽面ではプログレッシブ・ロック、ビジュアル面ではグラム・ロックの要素を含んでいるようにも思う。
しかし今回の出演バンドの本家である、QUEEN、KISS、Motley Crueは、たいてい、“ハードロック”や“ヘヴィメタル”という呼び方が一般的だろう。
また、ロックの歴史で言うところの“ハードロック戦国時代”で括れば、QUEEN、KISSの後にはAerosmithが挙げられる。
一方、Motley Crueはハードロックが時代遅れとされるヘヴィ・メタル隆盛期のバンドだ。それだけに、
QUEEN、KISSとはどうしても別枠になってしまうのだが、逆に、KISSとMotley Crueで枠を作るとしたら、QUEENが別枠になってしまう。
さて、QUEEN、KISS、Motley Crueの共通項とは何だろう?初期QUEENであれば、極めて風変わりで人の意表をつくという点で3バンドに共通しているのかもしれない。
とにかく、KISSとMotley Crueは昔よく聴いていたが、そのトリビュート・バンドの「MAKIN' LOVE」と「ZEN with ナスティハビッチュ」に関しては、
私は何も知らなかったこともあって、実際にライヴを見れば答えが見つかるかもしれないと期待した。
■フォックスの故障
11月下旬、KCのリハを見学させてもらった。
その時、YASSさんだけが、いつもと違うように感じてずっと気になっていた。
その原因の一つであろう事が判明したのは、ライヴ直前にすぬさんから電話をもらった時だった。
「こないだのリハの時、YASSさんが少し元気がないように感じたんだけど、なんかあった?」と聞くと、
「う〜ん、考えられるとしたら、フォックスの故障かな。いま2回目の修理に出してるけどライヴに間に合わなくて、
当日は※代用品を使うことになったんだよね。多分それかな〜?」との事だった。
←※( 写真下 )
ステージではYASSさんの足元に置かれているため、あまり目立たないかもしれないが、
初期QUEENのギターの音作りには、なくてはならないと言われているのがフォックス・フェイザーだ。
今回のKCのセットリストからみてもそれは必要不可欠である。
度重なるフォックスの故障はYASSさんにとってかなり悔しい事だったと思う。
■フレマイク
今更な説明だが、フレディが使用していたマイクの形状は通常のスタンドマイクの半分しかない。
そのスタイルは持ち方からしてフレディ独特であり、ファンの間では“フレマイク”と呼ばれる。
当然すぬさんが使用しているマイクもそれと同じ形状だが、
本家フレディと違うのは、ピアノ演奏に向かう時、フレマイク専用の小さなスタンドを利用している事だ。
本家フレディはもちろん専属のスタッフが付いているが、
すぬさんはその小さなスタンドにフレマイクを立て掛けてからピアノに座る。
しかしこれまでのKCのライヴを観ていても、
正直そのスタンドは使い易そうには見えなかったし、実際それに時間をとられるシーンは何度か目撃していた。
私が今回、すぬさんのマイクの受け渡しを担当したのは、それらの事があったからというのは建前になる。
本音は私の好奇心からであり、「やってみたい!」だった。
しかしそれをすぬさんに話したのは、ライヴの前々日。リハを一度見学しているとは言え、ほとんどぶっつけ本番でやるしかなかった。
「とりあえず当日のリハでトライしてみましょう!」と話して電話を切ったが、私の中では既にその時点で
ヤル気満々だったし、もっと正直に言えば、その時点からワクワクして仕方がなかった。
■印象派
当日、会場に到着するなり、すぐにらりさんの金髪染めが待っていた。
染めると言っても、かけるさんと二人で、らりさんの頭に金髪スプレーを容赦なく吹きかけるという単純作業である。
この作業、実は毎回ライヴ会場の裏口など、目立たない場所でやっているのだが、
渋谷ギルティでは適当な場所が、表口(出入り口)の階段しかなく、しかもそこには既に開場待ちの熱心なファンの方が
数名並んでいた。
まだ開場時間までは2時間近くもあっただけに、らりさんは驚きつつも恥ずかしそうにしていたが、
私達は文字通り容赦なく金髪スプレーを吹きかけた。
出来栄えの方は、ライヴのためにずっと髪を伸ばしていた事、そしてらりさんがこれまで使用していたものとは
少し色が違うスプレーを間違えて買ってきた事に対して、その開場待ちの熱心なファンの方々から
適切なアドバイスをもらったことにより金髪の色合いが更に良くなり、よりロジャーらしいヘアースタイルに仕上がった。
その後、KCはリハーサルに入った。
私とかけるさんは“大道具”の設置にとりかかる。
大道具とは銅鑼とBOXアンプのことで、KCはステージ衣装も手作りなら大道具も丹精込めた手作りである。
銅鑼はそれを吊り下げる道具にしても代用品を使用しているため
設置は少々大変だが、その大きさから素晴らしくステージ映えするので設置した後の眺めは爽快だ。
一方、BOXアンプの設置は本物のVOXアンプとの組み合わせが自由自在で、その微妙な位置調整まで可能なことから、
それを作製したYASSさんの指示無しでは勝手に手を出せないという思いがある。
というのも、実は本番前に私が一番気を遣ってしまうのがYASSさんだ。
YASSさんのギター周辺は、どうにも下手に近付けない。それどころか、YASSさんのレスペには
そう簡単に触る事も自分は出来ないのだ。それだけ私の中でレスペという存在は神を崇めるが如く尊敬の域にある。
KCのリハーサルもそろそろ終わろうとしていた時、誰かがBOXアンプを指して「それも作り物なの〜?」と聞いてきた。
おそらくその答えはほとんど分かっていながらだったと思う。それに対してYASSさんは低姿勢で答えていたが、
"VOXアンプの壁"は見せかけた作り物であっても、そこから繰り出されるYASSさんのレスペサウンドは見せかけではない。
■開演前
リハーサル終了後もトップバッターのKCは慌しかった。
開演まで30分しかない。みんな急いで荷物を楽屋に運び入れたが、既に楽屋には他のバンドの荷物が山のように置かれていて、
少し動くのも荷物をまたぐ必要がある程かなり狭くなっていた。その中を隙間を縫うような感じで、KCのメンバーが着替えとメイクを始める。
すぬさんは女性なので着替えはトイレに向かったが、
当然、男性陣はその場で着替え始めた。・・・と、しばらくしてから気が付いた、
男性陣が目の前でズボンを脱いでパンツ一枚の姿になっても、全く動じない自分に。(見慣れたか?)
着替えを済ませたすぬさんが壁側の鏡に向かってメイクを始めた。
1981年に発売された『QUEEN'S GREATEST PIX』というクイーン写真集にはメイク中のフレディのショットがある。
フレディは黒のアイラインをしっかり描いていて、その写真集以外でも音楽雑誌でメイク中のフレディの写真は何度か見た記憶があるが、
それらのショットが今でも印象深いのは、フレディがどれも鼻の下が少々長くなっている表情をしている事だ。
どうやら、すぬさんもそれが印象深く残っていたようで、私がカメラを向けると、そんなフレディの特徴的な表情を真似してくれた。
KCのカメラマンをやっていて、一番楽しい瞬間でもある。
会場スタッフからスタンバイの声が掛かった。
いよいよだ!
4人がその場で円陣を組む。
さぁ、ここで、喝をいれるのかと思いきや、
いきなり片手だけ出して、その親指と人差し指を合わせながら
小さなカワイイ声で、「ヨヨヨイ、ヨヨヨイ♪」と三本締めしてステージへ向かった。
・・・さすがKCと言っておこう。